最高裁判所第三小法廷 平成10年(あ)125号 決定 1998年4月07日
国籍
韓国
住居
滋賀県草津市渋川二丁目七番二〇号
パチンコ店経営
張一竜
一九二三年二月二八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成九年一一月二一日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人佐々木寛の上告趣意は、違憲をいうが、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 金谷利廣)
平成一〇年(あ)第一二六号
上告趣意書
被告人 松原政夫こと
張一竜
右被告人に対する所得税法違反控訴事件についての上告の趣意は次のとおりである。
平成一〇年三月一六日
右弁護人 佐々木寛
最高裁判所第三小法廷 御中
記
本件の本件岡田ノート外の押収手続に違法があり違法に収拾した証拠を事実の認定に用いた違法があり、右手続きに基づきなした判決は、憲法第三一条の適正手続違反の憲法違反がある。
第一、岡田ノートやアウトプットデータの押収方法が違法であり証拠能力はない。
一、本件の証拠に提出されている証拠は供述書を除けば、殆どが資料調査課が、本件強制捜査の前に持っていったものである。資料調査の調査は、岡田の証言や松原秀信の証言によっても、明らかであるように、松原商事株式会社の調査の際に資料調査課が持ち帰ったものであるが、その調査は、平和会館に従業員も誰もいないところで、始められていた。資料調査課の調査は任意の調査であり、当然、調査を受けるものの同意を得てはじめて可能なものである。しかしながら、本件に至っては、誰もいない平和会館に入り、実質的には捜査をして持ち帰ったものである。このような調査が許されるものではない。
資料調査課が持ち帰ったものが、査察における調査の資料となったことは、証人横山も認めているところである。つまり違法に収集された資料に基づき令状が発布されたのであるから、査察による強制捜査による押収も違法であると言わなければならない。
右押収手続は、前記のとおり、誰もいない「平和会館」に立ち入り、実際上の捜索活動を初めており、右行為は住居侵入、窃盗にも比すべき行為である。右行為によって、収集された岡田ノートは明らかに違法に収集されたものといわなければならない。
二、更に、資料調査課が持ち帰った資料がいつどのように、査察の手に渡ったのかも、本件においては、非常に不明瞭である。藤原の証言によれば、松原商事の事務所に資料調査からダンボールに入れた資料を持ってきてもらって、松原秀信に一旦返却して、査察がそれを押収したのとべる。しかしながら、押収品目録の記載を見ても新事務所としか記載されていないものが多数あり、どのような経過で押収されたかもはっきりしない。一方、松原秀信の証言によれば、自宅の方に、捜索の途中に、ダンボール箱を国税局の者と思われるものが持ってきた。そして、その中身を確認させられたことはなかったと述べる。その証言は詳細で、十分信用できるものである。そうすると、なにゆえ、藤原はそのような証言をしたのであろうか。
このように資料調査課の資料を査察が押収した過程も、本件においては、不明瞭なのである。
原判決は、資料調査課の調査と査察の捜査とは違い、例え資料調査課の調査に違法があったとしても、査察の令状請求及び捜索押収に違法は及ばないとする。しかしながら、国税局としては一体のものであり、権力作用の一貫として違法な資料の収拾がなされ、その資料を前提として、その資料を用いて令状請求をしているのであるから、当然、査察の令状請求及び捜索にも違法が及ぶと考えるべきである。そうしなければ、脱税調査において、資料調査課が窃盗及び住居侵入とも考えられる違法な調査をしても、その資料をもちいてなされる査察の令状請求等はまったく違法ではないということになってしまうからである。
従って、原審は違法な証拠を事実認定に用いた違法がある。
三、何故、そのように、資料調査からの査察への資料の提供がこのようにあいまいになされたのであろうか。それは、前記資料調査課の資料収集が違法であったからにほかならない。前記のように、原々審の決定によれば、たとえ資料調査課に違法があったとしても、査察は別個の組織であり、その違法は、査察の資料収集の違法に及ばないというが、同じ国税局としての組織であり、強制捜査に入るための令状請求においても、それ以前の査察における調査においても、前記資料調査課の収集した資料を利用しているのであるから、資料調査課の調査の違法が査察の違法にその違法が及ばないということはできない。しかも、資料調査課の調査が住居侵入・窃盗にも擬せられる行為であればなおさらである。
四、以上のとおり、本件捜査に憲法第三一条違反があり、その違法な捜査によって収集された証拠も用いた原審は、憲法第三一条に違反するものであり破棄を免れない。